世界でも類を見ない広さを持つ大阪の繁華街ミナミには子供の頃からよく出掛けた。
怪しく妖しいネオンに照らされながら非日常の雰囲気を醸し出すミナミの繁華街であったが、実際は前時代的な匂いを残す生活感とアナログ感溢れる街でもあった。
ミナミの街の端っこに「大阪府立体育館」は有った。
体育館と道路を隔てたホテル南海から外国人選手たちが会場入りする姿を何度も見かけた。
私は南海電車を降りて数分の馴染みの場所でタイガー・ジェット・シンを見かけた時、不思議なトリップ感に包まれた。
府立体育館での警備のアルバイトを行動派の同級生が見つけて来た。
おかげで学生時代は体育館の花道で片膝を付きながらリング上の熱戦を眺める事が出来た。
体育館でのバイトを終え、皆と別れた後、もらったばかりのバイト代で少し贅沢をしたいと思った。
千日前の「かどや」でホルモンとピールを味わった。
社会人になると「かどや」でホルモンを食べる事が贅沢と思わずに済むようになった。
バブルが訪れると、元々、生活感とアナログ感溢れる街であったミナミが身の丈に合わない弾け方をするようになった。
私は鰻谷で夜遊びを楽しむようになった。
しかしバブルに踊る人々が身に纏う、身頃の大きなダブルのスーツを眺めながら、
子供の頃見たアントニオ猪木と父が着ていたシングルのスーツを思い出した。
バブルの終わり、父と韓国に出掛けた。
父が釜山のテーラーに私を連れて行った。
「何か仕立ててもらえ」と言う父に甘えて、子供の頃憧れたアントニオ猪木と父の着ていたような仕立て感と上質感溢れるクラシコイタリアのシングルスーツのイメージを、赤ん坊に等しい韓国語で、テーラーの店員に必死に伝えた。
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